コンセンサスゲームでうまく行かないチームにどうするか?

【授業研究】研修会でいただいた質問に対する回答です。
〈質問〉「コンセンサスゲームでみんなが合意して決めるというルールだったが、チームは時間に押されて合意したとは言えない結果があった。小林さんが求めていた結果(理想的な話し合い)はありましたか?理想的な話し合いが行われていないときにどうしていますか?」
〈回答〉
 私は理想的な話し合いが起きていたと感じたことはほとんどありません。色々な失敗が起きていることが大事なのです。それを通して振り返ることで「深い学び」を促進できます。 
ただ、その前に、コンセンサスゲームは進め方を上手にする必要がありそうです。色々な方とやり取りしていて、個人の点数よりチームの点数の方が上がった人数の割合は、私の場合はほとんど80〜90%以上になるのですが、他の人たちの結果を聞いてみるともっと低いこともあるようです。それで、色々と聞いてきてわかったことがあります。まずは、できるだけ、うまく話し合えるようにするための設定をお知らせして、そのあとに「うまく行かなかったチーム」に向けての説明をどうするかの提案です。
 まずは、うまくやるためのコツです。
(1)まずは楽しくやろうという雰囲気作りです。先生がにこにこしていることです。
(2)でも、時間をきちんと意識してテキパキやることです。
  軽い時間プレシャーをかけ続けることです、生徒たちの集中力が上がり、
  チーム内の対話力が上がります。
(3)最初が大事。ワークシートをチームごとに手早く配布し、1人1人にワークシートが届くかどうかのタイミングで設定を読み上げ始めます。「みなさんは月面探索のチームです‥‥」。これは、最初の個人ワークを徹底するためです。ここをのんびり始めると隣と話し始めます。ここの巻き込み方は重要です。
(4)読み終えたら、そのまま「では自分の結論をワークシートの中に書いてください。ここは1人作業です。周りの人と話をしないでください」と説明して個人作業に入ります。
(5)「時間は3分」「あと2分」「あと1分」「終了です」と声をかけていきます。この間、各チームをこまめに見て歩き、遅れている生徒がいないか確認します。遅れそうな生徒がいるときは時間をさりげなく延ばします。ここで必ず全員が自分の結論を出していないとこのあとが崩れます。
(6)私はタイムアップの後も「まだ、終わっていない人がいたら手を上げてください」と確認します。手が上がったら、「あと何秒で終わりますか?」と質問します。すると「あと30秒ください」などの返事が来ます。「じゃあ、30秒待ちますね。みんなは黙って待っていてください」とやりとりします。質問して、自分で設定時間を決めさせて、やらせることで主体的な学びを促進できます。他のメンバーも待ち時間が明確だと待っていられます。先生は、その生徒の様子を見ながらこっそり時間調整をします。例えば「30秒」で終わりそうにないなら、もう少し待ってその生徒が終わりそうになった時に「はい、終了」と声をかけます。勝手に音がでるタイマーではなく、手持ちのストップウォッチを使うとこういう微調整が可能になります。
(7)全員が個人の結論を書き終えたら、チームでの話し合いに進みます。この時に大事なのは「ルールの設定」です。私は以下のように説明しています。
 (a)時間は20分間。今度は延長なしです。終わらなかったチームは「全員、死んじゃいますよ~」。
 (b)話し合いのルールです。「合意形成ゲームなので、じゃんけんをやってはいけません。多数決をやってもいけません。詳しい人が1人で仕切ってもいけません。誰か一人でも黙っている人をほおっておいてはいけません」と宣言します。
 (c)話し合いを素早く進めるために、ますばはワークシートの表にメンバー各人の結論を一覧表にしてください。ここを素早く読み上げて早く一覧表を作ると話し合いの時間が増えます。急いでやりましょう。
(8)始まったら各チームに何回も回って様子を確認して声をかけます。「ルール守れていますか?」「どこまで進みましたか?」「まだ、2つしか決まっていませんね。間に合いそうですか?」「あと10分ですが終わりますか?」「今度は時間延長なしですよ。決まらないとチーム全員が死んじゃいますよ(笑)」「あと5分です。急いで。急いで」「あと、3分ですよ。もう終わったチームもいますよ」等々、にこにこしながら、でも明るくプレッシャーをかけ続けます。誰かが仕切っているチームや黙っている生徒がいるチームはマークしておきます(意識して記憶します)が、ここでは介入しません。
(9)それでも終わらないチームにはそばについて何としてでも終わらせるように急き立てます。場合によっては少し延長します。全チームを終わらせないとワークの意味がなくなるので頑張りどころです。
(10)終わったら解答を渡して、1〜2分は結果を見てわいわい騒ぐのを認めます。少し興奮がおさまったところで、「では裏を見て、計算をしてください」と指示します。この時、解答をワークシートの順番に表示するか、プリントを配布するなどスピードアップの工夫が効果的です。計算機やスマホの使用も許可します。
(11)全員が計算が終わっていることを確認してから、「個人の結論よりチームの結論の方が正解に近づいた人は手を上げてください」と指示します。ここで一斉に手を上げさせることが大事です。そうすると、生徒たちは「えーっ、みんななの?」「ほとんど手が上がっているんだ!」「みんな同じなの?」と驚きます。この驚きをつくることがこのワークのイノチです。
(12)そして私は大事な説明をします。「今わかったことはこういうことです。私たちは1人でウンウン考えているよりもみんなでワイワイ考えた方が正解に近づくということです。物理の学習も同じです。これからの授業中はぜひ、みんなでワイワイ話し合いましょう」
 いかがでしょうか?すでにこのワークをやった方はご自分のやり方と比較してみてください。何かヒントになるところがあれば参考にして次回に活用してみてください。私よりうまい方法で実践されている方もいるはずです。良いアイデアがあったら、書き込んでください。

 さて、それでも、手が上がらないチームがいます。途中でマークしておいたチームがどうなっていたかを、さりげなく確認します。経験的には「仕切り屋さんがいたチーム」はおおむね手が上がらない傾向が強くなります。また、黙っていることが多かった生徒も手が上がらないことが多いのですが、この生徒は自分では深く考えてよいアイデアを持っていたから「点数が下がっている」場合が多いのです。仕切り屋さんに軽くブレーキをかけ、良いアイデアを持っている無口な生徒を励ますために、次の話をします。ここを効果的にするために、途中で指導をしていないのです。ここの話が次の振り返りに効果をもたらし、「深い学び」を促進します。
 その説明手順です。
(13)今、手が上がらなかった人やチームは話し合いのしかたがうまく行かなかったからかもしれません。次の話を聞いて、次回の授業中の話し合いがうまく行くように意識してください。個人の点数よりチームの点数が低くなって理由はおおむね「個人の参加のしかた」と「チームの進み方」に課題があります。
 まず「個人の課題」です。これは、良いアイデアを持っていたのに「話さなかった」か「話せなかった」かです。せっかく良いアイデアを持っていて「話さなかった人」は自分のリソースを自分だけのものにしないで、これからはみんなに伝えてください。それが「チームに貢献する」ということです。また、「話せなかった人」は恥ずかしかったか、自信がなかったのだと思います。でも、それを克服することが「主体的な学び」ですよね。話してくれると「対話的な学び」が活性化します。ぜひ、今後は、頑張って発言してみてください。
 次に「チームの課題」です。これは、良いアイデアが出たのにスルーしてしまったか、「そんなの関係ないよ」みたいにせっかくのアイデアを捨ててしまったからだと思われます。これは、物理学ではとても大事なことです。ノーベル物理学賞を獲るようなすごい発明や発見の中には「みんなが見過ごしていたこと」「みんなが馬鹿にしていたこと」「失敗だと思っていたこと」からスタートしたものがとても多いのです。だから、「一見馬鹿げた意見に見える意見」でも丁寧に話を聞き、みんなで吟味してみる態度が必要なのです。これからの物理授業でも同じです。この態度をみんなが意識するとこです「対話的な学び」の質がぐんと向上します。次回から頑張りましょう。

 と、こんな説明をします。そのうえで振り返りです。
(14)では、振り返りです。このワークをやって「感じたこと」「気づいたこと」「次回からやってみようと思ったこと」などをワークシートの下の「吹き出し」の中に書いてください。

 つまり、ご質問にあった「理想的な話し合いができていないチーム」に対しては、最後の話を聞いて「振り返りと気づきを促す」ことで対応していることになります。気になったチームや個人が何を書いてくるかに注目します。初回では何も気づいていないかもしれません。でも、1〜2ヵ月、数か月、半年1年かけてみていると少しずつ変わってきます。これが、私にとっては継続的に行う授業の醍醐味でした。「今日の失敗は明日の成功の基」です。あきらめることなく、挑戦し続けたいものです。

※「月世界で遭難」のワークシートは以下からダウンロードできます。
http://d.hatena.ne.jp/a2011+jyugyoukenkyu/20110607
【私が書いているのは全て私の実践を見たり聞いたりした方からの質問に対する回答です。私の授業実践が「唯一の正解」というわけではありません。私の授業が成功していた背景には、科目特性、生徒・学校の特性、小林の得意(生徒指導、カウンセリング、教育相談等)、などがあります。ただ、一般論だけを論じても伝わりにくいので私が何をしているのか、私が何を考えているのかを具体的に書いています。この通りにやるべきだといいたいのではなく、この実践を「ヒント」にして、みんなさんの実践を変えるきっかけになったり、議論を始めるきっかけになったりすることを期待しています。】