リフレクションカードにはコメントを書かないで返却する。

【授業研究】研修会でいただいた質問に対する回答です。
〈質問〉「リフレクションカードを子どもたちに返却するときに、コメントはどんなことを入れていたのですか?」
〈回答〉
  このことも「負担軽減」と「効果増大」を両立するために研修会ではよく強調していますが、改めて丁寧に解説します。まず、私は以下のようにリフレクションカードを使用していました。(1)(2)(3)・・は意図的にやっていたこと、(a)(b)(c)・・は期待していた効果です。
(1)毎回リフレクションカードを書かせる。
 (a)これにより生徒の「振り返りと気づき」の力が増大する。
 (b)率直な感想や意見が増加する。
 (c)その結果、授業者にとって改善のヒントが得られる。
(2)質問は授業評価的ではなく、生徒が自分自身を振り返るようにする。
  質問の具体例は以下。(A)態度目標に沿って活動できましたか?それによって気づいたことは何ですか?
  (B)内容目標に沿って理解できましたか?「わかったこと/わからなかったこと」は何ですか?
  (C)その他。授業改善に関するアイデア・意見・リクエスト・苦情などなんでもOK。
 (a)授業評価的な質問に対して生徒は本音をかかない。(遠慮したり点数かせぎをしたりする)
 (b)生徒が自己の内面を見つめるコメントで充分に授業改善のヒントは得られる。
(3)リフレクションカードの内容は成績に入れないことを宣言しておく。
 (a)評価されないことがわかれば安心できる。本音が出やすい。
(4)リフレクションカードの用紙はA4用紙両面に罫線を印刷した形式にした。生徒たちはこれの一番上に名前を書く。
 毎回のコメントには「日付」を書き、その下の行に(A)のコメント、その次の行に(B)のコメント‥を書く形式にした。
 (a)各コメントの量は何行でも自由に書ける。
 (b)返却されたカードには生徒の自分の記述が残っているので、自分で自分のコメントを読むことができる。
つまり、自分のコメントを「振り返る」ことができる。
 (c)授業者側のメリットだがA4用紙だと保管が楽。スキャナを使ってデジタル保存もしやすい。
(5)授業の最後の「起立、礼」は省略した。
 (a)これにより長く書きたい生徒は休み時間に食い込んでもたっぷり書いていた。
 (b)書くのが遅い生徒もプレッシャーを受けずに書くことができた。
 (c)最後の挨拶を一斉にやると「ゆっくり書きにくくなる」という声があった。

 さて、以上を踏まえて返却に対してコメントをどうしていたかというと、「コメントは書かない」ことにしていました。「検印だけを押して」返却していました。その理由は第1に「負担軽減」です。しばしば聞いた失敗例が以下です。
「最初に全員にコメントを付けて返却しました。生徒は喜んで読んでくれました。その後も、これを続けていました。しかし、ある時、仕事が立て込んで全員にコメントを書く時間がなくって来ました。やむなく、一部の生徒にだけコメントして返却しました。そのようなことが続いたら、コメントの量が激減してしまいました。また、『前回と同じ』『わかった』などの雑なコメントが増えてしまいました」というものです。
 若くて熱心な先生に多い失敗だと感じています。私はこれこそ、自ら負担を増加させて自分の首を絞めたうえで、生徒の安全安心を阻害して、学習意欲を低下させる典型例だと感じています。なぜなら、最初にコメントを書けば生徒たちは喜んで「もっとコメントを書いてもらおう」「友だちよりたくさん書いてもらえるようにしよう」としがちです。いわゆる「褒められ競争」が起きます。当然、内容も「先生向け」に書きます。それでも、先生がコメントを付けて返却しているうちは良いかもしれません。
 しかし、上記の先生のコメントのように忙しくなってきて「コメントの量が減少する」「一部の生徒にはコメントを付けないで返却する」と何が起きるか‥。「私のコメントは褒められる価値がなかった」「友だちはコメントがあったのに私にはなかった。友だちに負けた。くやしい‥」「次はたくさんコメント書いてもらえるようにいっぱい書こう」「どうせコメント書いてもらえないなら、どうでもいいや。適当に書こう」などです。
 厳しい言い方ですが、これは先生が全員に丁寧にコメントを付けたからです。「労力をかけて教育効果を低減させた」と言えるかもしれません。55歳になるときにこの授業改善を始めた私はベテランの経験上、上記のことが起きることは最初から予測ができました。まあ、元々、それほど仕事熱心ではなかったともいえますが‥(笑)。それだから、「検印だけ押して返却」にしたのです。これだから、1年間、コンスタントに続きました。生徒は「先生が見てくれている」とは感じていたようですが、何を書いてもほめられもせず、叱られもしないので、自分自身を見つめて自由に書くことができたようです。ただ、時々、誰かがリフレクションカードに書いたことが基になって、私がちょっとした改善をします。これは生徒たちを喜ばせていたようです。
 というわけで、質問に対する回答は「コメントをつけない」でした。ただ、少し例外がありました。
 その1つは、毎回、「わかった」「よかった」といい加減なコメントを出してくる生徒に対してです。同様のコメントが2回連続までは何もしません。偶々、忙しくて書く時間がなかったのだろうと解釈していました。3回連続になるとコメントを付けました。内容は「具体的には?」です。次の回にはコメントが増えるとまた検印だけにしますが、中にはそれでも「わかった」だけを書く生徒もいました。これに対しては「具体的には?」と同じコメントを書きます。
 私の記憶では「具体的には?」が3回続くと生徒のコメントに変化が表れていました。これはA4用紙を使った効果があったようです。つまり、私が「具体的には?」を3回連続で書くと、リフレクションカードに3回連続で同じコメントが書き込んであるのが目立ちます。この効果は大きかったようです。5回続いたら呼び出して面談しようと考えていたのですが、それは一度もしないで済みました。
 2つ目は質問への対応です。内容について「○○は何ですか?」というような質問が出てくることがあります。簡単に答えられることはコメントとして書き込みました。ただ、長くなるとコメントを書くのが面倒なので、「授業中に質問してください。他のみんなにも共有する価値がありそうです」と書き込んでいました。
 3つめは気になるコメントへの対応です。「最近、集中力がないです」「ちょっと進路で迷っています」などのコメントに対しては、授業中に声をかけたり、休み時間や放課後に声をかけたりしていました。 
【私が書いているのは全て私の実践を見たり聞いたりした方からの質問に対する回答です。私の授業実践が「唯一の正解」というわけではありません。私の授業が成功していた背景には、科目特性、生徒・学校の特性、小林の得意(生徒指導、カウンセリング、教育相談等)、などがあります。ただ、一般論だけを論じても伝わりにくいので私が何をしているのか、私が何を考えているのかを具体的に書いています。この通りにやるべきだといいたいのではなく、この実践を「ヒント」にして、みんなさんの実践を変えるきっかけになったり、議論を始めるきっかけになったりすることを期待しています。】