ユスリカのだ腺染色体

 パワーポイントとプロジェクターを使い始めたころのエピソードを1つ紹介します。使い始めたころの話です。C高に勤務していたときに「生物」の授業を持たなくてはならなくなりました。理科の教員免許は高校でも「理科」なんです。「理科(物理)」と書いて専門は物理ですとアピールしたりはするのですが、理科の免許には違いがないので、理科はできませんとはいいにくいのです。
 でも、私は生物は苦手なのです。地学なら何とかなるし、化学も頑張れば何とかなるかなと思っているのですが、生物だけはとても無理と言い続けてきました。それが逃げられなくなってしまったというわけです。困っていた私に若い生物の先生が「小林先生、私が去年使っていたプリントを全部差し上げますからお使い下さい」と救いの手を出してくれました。このプリントが実に良くできていて、そのまま使ってしのいでいました。

 ところが問題が生じました。「絵が描けない」のです。物理では図は書きます。これは得意なのですが、生物では絵が必要なんですね。やむなく「図の下の方にあるのがね‥」なんて説明するのですが、生徒は「どこ?わかんない〜」という調子です。そんなときに情報担当の先生から「プロジェクター使ったら?便利ですよ」と言われました。で、最初に挑戦したのが「ユスリカの唾腺染色体」の写真です。実験の前に見せておけばイメージがつかめて理解しやすいと思ったからです。左がその画像です。
 これをプロジェクターで見せたときの生徒の反応は劇的でした。「きれい!」「気持ち悪い!」という好き嫌いはあったものの、「大きい画像だとよくわかる!」「この機械ってすごいね」「先生、かっこいい!」などなどでした。これに味を占めてパワーポイントの使い方を夏休みに集中的に勉強しました。使えるようになったので、夏休み後半に教育センターの研修会講師の資料もパワーポイントでつくってしまいました。当日、担当の指導主事の方が「小林さん、それなら新しい道具があるのですけど使ってみませんか?」と声をかけてくれました。
 まだ、届いたばかりで梱包を解いていない箱を開けてみると、それは「レーザーポインター付き無線マウス」でした。今ではだいぶ一般化しましたが当時は「新製品」でした。これを使うとPCから離れてパワーポイントのスライドを動かしたり、アニメーションを操作できます。レーザーポインターで見て欲しいところを示すこともできます。これにはびっくりしました。その日の研修会の翌日に秋葉原に買いに行ったほどです。店員さんも初めてらしく、「店員用の説明マニュアル」を見ながら説明してくれたのが、とても印象的でした。
 私はこのリモコンがなかったら授業で使うのをためらっていたと思います。PCに付ききっりで説明をするのでは生徒との距離がありすぎると感じていたからです。こんな偶然の出来事が重なって、私は授業でパワーポイントとプロジェクターを使い始めました。教室には設備がありませんから、毎回教室までたくさんの荷物を運びます。ノートPC、プロジェクター、スクリーン、コードを持ち、休み時間に教室に入ってせっせと設置します。少しずつ生徒が手伝ってくれるようになりましたが、かなり大変な毎日でした。