「さん」で呼び合う教育を受けてきました

【授業研究】私は「小林〈先生〉」と呼ばれるのが苦手です。学生や生徒を呼び捨てにするのも苦手です。でも、それぞれの小社会の習慣を変えさせるほどの我儘ではないので、曖昧なままにしています。

 そんな感覚を身に付けたのは出身高校の文化もありましたが、何より大学物理学科です。新歓コンパの場で教授陣が来る前に4年生が1年生を集めて話をしました。
「みんなは、教授や准教授を〈センセイ〉と呼びたいだろうけど、
 物理科でそう呼ばないから、覚えてね」
「???」
 教授陣の中にはノーベル物理学賞の候補と噂される先生もいるのです。それなのに「先生と呼ぶな」とは‥。新入生みんなが戸惑います。

 4年生の話は続きます。
「私たちはお互いに〈さん〉で呼ぶから、君たちもそうやってね」
 1年生は動揺します。4年生は続けます。
「みんなは物理学科に入ったのだから、物理の真理を究明する研究者だよ。
 その真理を探究するという面では教授も学生も同じ立場なんだよ。
 対等な立場の研究者同士だから、お互いに〈さん〉と呼ぶんだよ。いいね」

 感動しました。心が震えました。
そして実際、物理学科ではこれが徹底されていました。
私は教授・准教授・助手のみなさんから一度も呼び捨てされたことがありません。
「小林さん」か「小林君」でした。
物理事務室の女性もこの文化を守っていました。
彼女も教授にも私にも「さん」でした。
私たちも彼女を「さん」づけです。

 確かに、この文化がゼミの時には役立ちました。
対等に議論できました。
どんな間抜けな質問をしても馬鹿にされない安心感もありました。
この文化が私より少し後輩の梶田さんのノーベル賞
つながったと勝手に思っています。

 この本の書き方で1つ気になる事は私たちには
「上に逆らう気持ち」もない気がします。
ただ単に、気になる事は質問し、
誰に対しても普段通りに自分の意見を言うだけです。
まあ、それが異なる文化の人たちからは
「上に逆らう」と見えることもあるのでしょうが‥。