【授業研究】Bさんとの対話で気が付いたことを続けて書いてきました。今日でひと区切りです。
〈5 まずは授業者スキルの体系化を‥〉
これまでに分かってきたことを整理します。
➀「主体的・対話的で深い学びの実現」、
更に、成績向上・学習意欲向上などを達成するには、
生徒たちに「安全安心の場」をつくることが不可欠である。
➁生徒たちの「安全安心」は授業者の心理とその現れ(態度)によって、
大きく左右されてしまう。
➂従って授業の質的向上を目指すには授業者の態度を変える必要がある。
この態度は技術(スキル)として捉えると、
「誰でも・意識的な繰り返し」によって作り変えることが容易になる。
④Bさんは「授業者としてのスキルトレーニング」を、
授業外における生徒との関わり方を通して行って成果を上げることができた。
ここに挙げたことはこれまでの教科科目の授業の質を上げるための授業者に必要な「資質・能力」や「研修の方向性」とは大きく異なります。そもそも、教師(教員)の在り方と授業者の在り方はあまり区別されていなかった気がします。そこでここでは「教師の在り方」としてまとめます。
これまでの「教師の在り方」は人格や人間性が強くとらえられていた気がします。そして、授業に関しては教材を作りこむことが過大に取り上げられていた気がします。この場合の教材は「指導案、板書計画、実験道具等の設備、プリント、ICT機器、教室や座席の配置など」を含みます。極端なことを言えば「良い教材をつくれば、誰でも良い授業ができる」という感じがします。
私は経験的にそうは思いません。教材はすでにほとんど出来上がっています。学習指導要領、その解説等、検定教科書、教科書会社が作成した指導資料や副教材、市販されている参考書や問題集‥どれも多くの優秀な専門家の皆さんが時間とお金を投じて懸命に作り上げた成果です。
私たち現場の教員は教科書・問題集などの教材作成の専門家ではありません。そのための訓練を受けることも滅多にありません。それならば「下手な教材作成を徹夜同然に積み重ねて、へとへとになった授業に臨む」より、「すでにある教材を使って、対面型の授業において生徒たちの安全安心の場をつくりだし、対話や深い学びを促進させて主体的な学びを実現する〈授業者スキル〉」を高める方が良い授業を実現できると考えています。
ここでいう〈授業者スキル〉は人格・人間性とは一線を画して、もっと具体的な行動を指します。野球で言えば、素振り→ティーバッティング→ピッチングマシーンを使う練習などを経て実践に臨むようなスキルトレーニングです。野球などのスポーツや武道などは概ねスキルトレーニングの順序が確定している気がします。基礎基本と応用が区別されているということです。初心者にいきなり試合をやらせないということです。
しかし、授業者には基礎基本と応用の区別がほとんどありません。教育実習生がいきなり「試合=生徒相手の生の授業」に臨まされて立ち往生することは日常的です。このように乱暴なことが行われ続けているのは社会学的には工業化社会における教師の役割は「なにもなかった」ということによるようです。これを詳述する余裕はありませんが、文科省の「主体的・対話的で深い学びの実現」を本気でとらるのなら、〈授業者スキル〉の基礎基本や応用などのトレーニング・プログラムが必要です。そのためにはまず〈授業者スキルの体系化〉が必要です。体系化なしには「基本と応用の区別すらできないからです。
更に大きな課題があります。それは〈授業者スキル〉は〈教師スキル〉の特殊性であることです。そして両者は「同一方向に向けて、同一理論に基づいて整理される必要」があります。Bさんが、教科授業ではない場面でトレーニングしていたのは〈教師スキル〉のトレーニングです。このトレーニングの成果が授業中の安全安心の場をつくるという〈授業者スキル〉につながるということがその一例です。
これらを整理していくことがいわば「授業名人のスキル」を「誰でもトレーニングすることで身に付けることができるスキル」にすることができると思っています。試案はある程度描けています。研究協力をしてくれる方も少しずつ出てきました。興味のある方はお知らせください。[この項終わり]
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