Bさんとの対話4

【授業研究】Bさんとの対話で気が付いたこと第4回です。
〈4   相談をしてもらえる先生になるためにはスキルトレーニング?〉
 Bさんはメールに以下のように書きました。

> ‥ようやくですが、生徒さんから何気ない会話や相談事などを
>  話しかけてくれるようになりました。

> 実は、恥ずかしながら今までなかった経験です。

 

 前回は生徒たちから何気ない声をかけてもらったり、深刻な相談をしてもらえる先生は少ないという私の推測を述べました。その理由は教師側が生徒たちに対して、そうなるように接しているからです。元々、性格的に生徒たちに対して対等な人間関係を大事にして接していく先生たちもいます。しかし、そうではない先生たちにとっては、それを改善するのはなかなか難しい気がします。

 では、それを改善するにはどうすればよいか。すでにBさんはそれを改善したと書いています。


> 現場に出て一年が経ちましたが、ようやく教師の「鎧」が外れてきた
> と思います。
> 以前の自分に戻らないように、口調、声のかけ方、態度など
> を小林さんの本

> 「アクティブラーニングを支えるカウンセリング24の基本スキル」
> をもとに、気を付けるようにしていました。
> すると、ようやくですが、生徒さんから何気ない会話や相談事などを
> 話しかけてくれるようになりました。

 

 口調、声のかけ方、態度などを気を付け続けてきたら、生徒たちのBさんに対する態度が変わったというのです。交流分析では「過去と他人は変えられない」と言います。だから、他人を変えようとするより自分を変えた方が良い、と言います。ただ、これは「気持ち」を変えるべきと言っているような気がします。

 私は「スキル」を変えた方が早いと思っています。私はBさんがあげた本やそれ以外のところでもこれらのことを丁寧に取り上げています。それらは1つ1つが貴重な体験を通してその必要性を実感してきたスキルです。

 例えば「廊下などをゆっくり、ひまそうに歩く」というスキルです。これをトレーニングし始めたきっけはある事件でした。私が担任していた女子生徒が授業中にトイレに行ってシンナーを吸飲するという事件が起きたことがあります。相談係になって、担任も兼務していた私はいつも生徒たちにこう言っていました。

「相談係の私が担任だから、クラスのみんなの相談は優先的に聴こうと思っています。何か困ったことがあったら、言ってくださいね」

 しかし、この女子からは何の相談もなく、いきなりシンナー吸飲という事件になりました。急を聞いて保険に室に駆け込んだ私に彼女はこう言いました。

「先生、ごめんね。先生に相談しようと何度も思ったんだけど、いつも先生は忙しそうだったので‥‥言えませんでした‥」

 ショックでした。口で「いつでもおいで」と言いながらも、態度は「忙しいから来るな」と言っていたことになります。これを改善するにはその態度を変えるべきです。「態度」は曖昧な表現です。具体的なスキルにしないと行動の目標・計画になりません。そこで私は生徒に見える可能性のある廊下・教室・グランド・体育館などを歩くときは次のように歩くことをトレーニングし始めました。

・ゆっくり歩く。

・周りをのんびり見渡しながら歩く。

・目の力を緩めて穏やかな表情をつくる。

・時間に余裕をもって移動を始める。

・歩きながら時計を見ない。

・生徒に会ったら「おはよう」などと声を先にかける。

 これはなかなか大変でした。廊下を歩いている時に生徒が「小林先生、ひまそうですね」と生徒が声をかけてくれたのは1年ほどトレーニングしてからでした。これはたぶん誰にでも実行可能なトレーニング項目です。特別な体力、筋力、運動神経などが必要ないからです。つまり誰にでもできるということです。

 空手をやってきた私にとっては1年間で技が身に付くのは「とても楽」なことです。時には1つの技を習得するのに1~2年かかるのは当たり前の世界だからです。もうひとつ「楽」だと思うのは、教師にとって必要なスキルトレーニングはハードな筋力トレーニングではないので、「誰にでもできる」ということです。

 「生徒から怖がられている先生」が「生徒から声をかけてもらえて、相談される先生になる」と考えると、とてつもない距離があるように感じます。人格や人間性や性格が大きな壁になるような気もします。しかし、私は「スキルトレーニング」だと思っています。この考え方が「授業者スキルの体系化」のアイデアにつながってきています。

[この項続く]

◎このあたりの理論的土台はこちらを参考にしてください。

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