「グループ作りで注意している点は何ですか?」

【授業研究】研修会でいただいた質問への回答です。
〈質問〉「グループ作りで注意している点は何ですか?」
〈回答〉
 私がグループづくりで注意していることは(1)まず「安全安心の場」を形成し、(2)「主体的・対話的で深い学びの実現」を図ることです。この順序は「安全安心の場」がないと人間は主体的な活動を起こしにくく、本当の意味での対話が起きることもなく、何より「振り返りと気づき」が起きないために、深い学びの実現が困難であると考えているからです。具体的には以下のことを行っていました。
 まず「席は自由」にしていました。物理的・生理的に「居心地の良い席に行ってください」と指示することもありました。これは「目が悪い人は前へ」「寒いと感じる人は日の当たるところへ」などの意味でした。生徒たちはおおむね、好きな友達のそばに着席しました。このように「自分で席を決める」ことが「主体的な学び」の第1歩になると考えていました。
 教室は大きな実験テーブルが6台、テーブルを囲むように着席することになります。このカタチが「安全安心でなくなる生徒もいる」ととらえていた私は「1人用の席」もつくりました。教室で使っている1人用の机といすを物理室の実験テーブルの隙間に10人分くらい配置しました。生徒たちが何を「安全安心」ととらえるかは多様です。インクルーシブ教育の視点からも大事にしたいことです。この独り席にいる生徒には段階的なアプローチをかけ、おおむね半年以内にはグループ席について、他のメンバーと「対話的な学び」ができるようにしていました。
 大学の授業ではグループをつくらなくてはならないことが多いのですが、その場合は以下のことに注意しています。当初はくじびきをやってみたのですが、女性が多い本学では数人の中に男性が1人になるケースが出現しやすく、男性が居心地悪そうです。そこで、くじ引きに近い形でグルーピングをしたうえで男性または女性が1人だけにならないように微調整したグループ分けを発表しています。
 安全安心の場を維持するためにさらに2つのことを意識しています。1つは「パスあり」です。「何らかの理由で今日はグループができない、やりたくない人はパスしてよい(見学OK)」にしています。半期(14回)に1人くらいが「先生今日はグループに入らないで見ていていいですか?」と言ってきます。私は「良いですよ」と答えてから、「理由を聞いても良いですか?」と質問します。先に理由を尋ねると「理由によって可否が決まるか?」と不安になるからです。もう一つ大事なことは、この1人の学生とのやりとりは必ず多くの学生に伝わると理解しているからです。「先生はまずOKを出してくれた。私の時にもそうしてくれるだろう」と多くの学生に伝われば安全安心の場の形成に大きな力になると信じています。
 もう1つはグループ替えの際に「このグループは3回続けるね」などと宣言することにしています。そうすれば「偶々、肌の合わない人と一緒になっても、終わりが見えていれば我慢できる」=「安全安心の場に近くなる」ととらえているからです。リフレクションカードに「とても嫌な人と一緒になった。でも、あと2回我慢します」と書いてきた学生もいました。
 このようにグループを多用することで「対話的な学び」が促進されることは理解していただけると思うのですが、「深い学び」を促進するためにはリフレクションカードの質問に工夫をしていました。しばしばクループについてどう取り組んだかの質問を入れていました。例は以下です。「グループで協力できましたか?それによってどんなことに気づきましたか?」「次はどのように取り組みますか?」「新しいグループにしました。どんなことに気を付けて他のメンバーに働きかけましたか?」「他のメンバーの働きかけ方で気づいたことや役に立ったことはありましたか?」
 これらの問いによって「質問してみたら丁寧に教えてくれた。意外に優しい人だった」などの気づきを書いてくることもしばしばです。これらは「自分の暗黙の前提に気づいて行動の変容を実現すること」ができていると言えます。私はダブルループ学習(アージリス)が起きているととらえています。このようなことの積み重ねが親密圏を拡大したり、他者の存在の価値に気づいたりするきっかけになり、キャリア形成上も良い変化をきたすと思っています。これらが「深い学び」と言えると思っています。