テレビで紹介された授業の疑問

【授業研究】「先に生まれただけの僕」で櫻井翔さん扮する校長が、「図解アクティブラーニングがよくわかる本(小林昭文監修/講談社)」を本屋で見つけてから、アクティブラーニングに取り組みます。そのためか、校長が行った授業は「図解‥」に紹介されている授業だと理解している人も多いようです。

 しかし、私はあの本の中でその授業を取り上げていません。その形式の授業があることは知っていましたが、自分で実践して効果を確認していないことは取り上げないことにしているからです。その授業に関して気になることを述べることにします。

 まず、どんな授業かというと、「黒板に全員の名前を書いたマグネットカード」を貼り付けておきます。先生が課題を出して、生徒たちは協力して解いていきます。どうやらテレビで実践していたものは、「解答解説は配布しない」「生徒同士で教えるときはヒントに留める」ということのようです。そのうえで、「わかった生徒」は先生のところに答えを耳打ちします。正解だったら、自分の名前のカードを「ゴール」の枠の中に移動するというものです。

 テレビでは生徒たちは楽しそうに盛り上がってやっていました。私は、最後まで「ゴール」できない子どもは「嫌だろうなあ」と気になっていました。「個人名を出すのではなく、チーム名程度にすればよいのに‥」なんて考えていました。

 そんなことを考えていた時に、ある学校でこの方法で公開授業にチャレンジした先生がいました。興味津々で見ていました。生徒たちはテレビと同じように盛り上がります。私は全員がゴールするのだろうか?、最後の生徒はどうするのだろうか?、に注視していました。すると最後の数枚になると、1人の生徒が2~3枚をまとめてゴールに移動させました。ほぼ同時に、もう1人の生徒も黒板の前に来て残り2~3枚をゴールに移動させました。「全員解けたんだ」と感心しました。

 ところが、生徒たちはいくつものグループでまだ話し合っています。不思議に思って、近づいてみるとまだ解けていないのです。「えーと、わかんない」という声も聞こえます。

 事後の振り返り会の時に授業者に質問してみました。授業した先生はこの事実に気が付いていないようでした。で、「カードがゴールした後もまだわからない生徒がいて、話し合っていたようなのですが、どうしてだと思いますか?」と質問してみました。

 すると、「最後までカードが残るのは嫌だから、解けていないのにカードを移動させたんじゃないですかね」との返事。この返事に違和感がありました。全く知らなかったら「え?そんな子がいたんですか?」となりそうです。授業者はそういう事実が起きていることを知っていて、黙認していたような気がします。生徒を追い詰めないようにするには、厳密にするよりその方が良い気がします。その意味では、ここをファジーにしていたこの先生のやり方は、それなりの優しさと理解することもできます。

 授業者がワーク中の生徒の中にあまり入っていかないのも、そのための布石なのかもしれません。私のように何度も近寄っていたら、生徒たちは困ってしまうかもしれませんから。

 しかし、元々、この方法にはこういう問題が生じる可能性があるという私の懸念は裏付けられた気がします。「安全安心の場づくり」を優先する私は、「ゴールできないことで不安になる生徒をつくる」可能性があることに対して、充分に配慮したいところです。

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