【授業研究】Bさんとのメールを通しての対話の続きです。
〈2 「生徒が~をできるようにしてあげる」はボスマネージメント?〉
 Bさんとのメールは長文で話題も多岐にわたっているのですが、その中で、私がひっかかったところがありました。それは、色々な意識をして少しずつ生徒との関係も好転し、授業もスムーズになってきたという話の後の一説です。
 
> でも、授業では、まだ「アクティブラーナーを育てる」というところまで​
> 行っていませんし、上記のような失敗をしています。
 
 これに私は次のように返事をしました。
[メール引用開始]
先生が「1人1人の生徒を育てよう」とするからうまく行かないのです。
なぜか。
もし、先生の意欲と指導の結果として、
「先生が目指す方向に生徒一人ひとりが変化した」としたら、
それは「先生に誘導された」「先生の気持ちに応えようとした」
「先生の気持ちを忖度した」可能性が大きいのです。
ここに「対話的な学び」の大事さがあります。
 生徒たちが対話を深めていくと、友だちの存在の大事さに気づきます。
互いに支え、支え合うことの楽しさ、効果を実感して意欲的に学び始めます。
そのうち、「先生の存在は気にならなくなります」。
誰かにやらされるのではなく、友だちが周囲にいる中で、
「1人でやったり」「友だちに相談したり」「友だちを支援したり」、
時には「先生に相談したり」‥していきます。
 自分や自分たちにとって、
今はどう学ぶのが良いかを考えながら選択していきます。
これが「メタ認知」であり、
「自己調整型の主体的学び」ということです。
「対話的な学び」の促進と、
「振り返り→気づき」の力(メタ認知力)をつけさせる
こと(「深い学びの実現」とも言えます)が、
「主体的な学び」を実現します。[メール引用終了]
 
これは「選択理論」を意識しています。
 「選択理論」では「リーダー」と「ボス」を似て非なるものとして対比します。その方法を「リードマネージメント」と「ボスマネージメント」と言います。「ボスマネージメント」は「(生徒・部下に対して)~をしてください」「~をしろ」と指示して、相手がその通りに動く体験を繰り返すうちに「私には人を動かす力がある」と勘違いをするようになると言います。
 こう感じるようになったボスのところに「言われたとおりに動かない」生徒や部下が来ると、「自分の力が通じない」「自分の力が衰えた」と感じます。そこで、大きな声を出したり、何度も指示を繰り返したり‥要するに威圧することになりがちです。その中には、「ペナルティーをちらつかせる」「脅す」なども含まれます。ひどい場合には、暴力に発展します。これが体罰の構造であるとも指摘しています。
 教師は元々、権限と権威を付与されていますから、生徒たちは言うことをききます。それに慣れてしまうと「自分には人を動かす力がある」と感じます。「選択理論」は私たち教師の心理を実に深くとらえています。この感覚があるから、Bさんも「生徒の一人ひとりを〈自分の思い通りに〉育てたい」「育てることができる(動かすことができる)」更には「育てなくてはならない(動かさなくてはならない)」と感じるのだと思います。普通それは上司や教師として良いことだと言われます。
 しかし、この感覚は、生徒が思い通りに動かないと「自分の力のなさを感じて落胆する」「力のないことを認めたくないから生徒を威圧したりペナルティーを科して無理強いする」などをします。生徒の安全安心は脅かされます。
 ではどうすればよいのかと反問されそうです。私はここに「対話的な学び」を出してきた文科省の素晴らしさがあると感じています。教師が一人ひとりの生徒を思い通りに動かそうとするのではなく、生徒たちの「対話を促進し」「協働的な学びが継続する」仕組みを作り、継続的に支援し続けていけば、生徒たちは「自ら」「自分たちで」歩き始めるものです。
 少なくとも私の高校物理ではそれを実現できていました。高校3年生にもなると、私に頼る生徒はいませんでした。大半の問題は「生徒たち同士で解決」していきました。私は生徒たちの一人ひとりを私の思い通りに動かそうとは思っていませんでした。彼らが個性を活かして、自分に必要なことを、自分のスタイルで学んでいけばよいと思っていました。
 私と似たようなタイプの生徒もいれば、真逆の生徒もいます。私とは異なるタイプの生徒を私の尺度で引っ張ろうとすれば無理強いすることになり、成長を阻むのではないかと恐れていました。[この項続く]

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