臨床教育

【授業研究】日本のカウンセリングの草分けとして有名な河合隼雄先生は「臨床教育」という言葉を使っていました。授業中に「偶然に起きた出来事を上手に使って教育をしていく」というような意味です。シンクロニシティ―という考え方にも通じます。このことを思い出させる出来事に出会いました。

 少し前のことで。小学4年生の授業を見学しました。漢字の練習の時間です。担任ではない国語の先生が指導していました。正面右側の黒板には「今日の目標:人をきづつけない[原文のママ]」と書いてあります。

 先生に指名された子供が前に出て黒板に大きく字を書きます。席にいる子どもたちは前に出た子に合わせて、指で顔の前の空中に大きく漢字を書きます。最近、小学校を見学に行くようになって初めて知りましたが、こういう漢字の練習の仕方はあちこちの小学校でやっていることのようです。

 何人目かの子供=女子が前に出て「児」という字を書くことになったときに「事件」が起きました。彼女の「児」という字は正しく書けていた気がするのですが、一人の男子A君が「えーっ、違うよ~」と大声を出しました。それに同調して他の2~3人の男子が「違う違う」「間違っているよ」と同調します。別の女子Bさんが「そんないい方しなくっても‥」と小さい声で反論します。前に立っている女子Cさんは固まっています。私の席からは表情が見えませんでしたが、涙ぐんでいたかもしれません。

 先生も困ってしまったようです。呆然としています。違うよと言っている男子のところに行って話を聞いています。どうやら「児」の「日」の下の右側の足が「日」についていないということを「間違いだ」と言っているようです。先生は黒板に行ってそれを下を向いている女子に教えています。「でも、これでもいいんだよ」と先生は子どもたちに話したようです。ざわついたままの教室の雰囲気を変えようと、先生は前に出ていた女子を席に戻して、「じゃあ、次ね」と進めました。

 この場面が「今日の目標:人をきづつけない」の前で起きたということに、私は象徴的なことを感じていました。授業終了後に授業者に訊いてみました。「黒板に書いてあった目標は字が違っていたのに気づきましたか?」「いいえ。書いてあったことも気づきませんでした」との返事。私はザンネンな気持ちでした。

 もし河合先生なら、どう対処したかなあ?と色々考えてしまいました。いずれにしても「今日の目標」につなげたいものです。しかも、ひらがなが間違えている‥担任の先生が書いたらしいのです。担任の先生を「傷つけない」ようにしながら、このテーマに即してどう書き直すか‥うーん、難しい。

 教育学部でこんな授業をしてくれると良いのですよね。研修会でやるのも良いかな‥。こんな事例を訪問する学校で集めていこうかななどと思い続けています。

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