感情労働

【授業研究】「感情労働マネジメント(田村尚子著/生産性出版)」という本を読みました。著者の田村尚子さん(西武文理大学教授)とは、25年ほど前に上智大学カウンセリング研究所で共に学んだ仲です。久しぶりに連絡を取り合い、色々と教えていただこうとしている時に、「上梓したから」と送っていただきました。私にとっては良いタイミングで、良い本を紹介していただいたと感じています。

 「感情労働」という言葉になじみのない方も多いと思います。「肉体労働」「頭脳労働」と並べて「感情労働」と捉えられているようです。最初にこの言葉についてまとめた本は「管理される心~感情が商品になるとき(A・R・ホックシールド著/世界思想社/2000)」です。原著は1983年に出版されていますが、邦訳は2000年です。この中でホックシールドは以下のように述べています。

「19世紀の労働者は肉体を酷使されたが、サービス労働に従事する現代の労働者は"心"を酷使されている」

「現代とは感情が商品化された時代であり、対人的職業に従事する人は"心"を売らねばならない」

 尚、「感情労働」の定義は以下です。「自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手の中に適切な精神状態を作り出すために、自分の外見を維持する労働」。

 田村さんの研究はこの定義に従いながら、多くの現場を調査し、「感情労働の肯定的側面」「感情労働の否定的側面」、そして組織的に組むべき「理論的な対応策・組織的な支援構造・具体的な企業における対応事例」を取り上げています。

 私はその特徴は「肯定的側面」を取り上げていることと、具体的な事例を豊富に取り上げている点にあると思います。読みやすい文章であることも、初めてこの分野の本を読む読者にとっては助けになります。

 私の研究対象である「授業改善」にも必要な視点だと思い知らされました。1つには教師も「感情労働」を強いられる仕事であるからです。授業改善を支援するときに、この側面からの支援を忘れてはいけないと感じました。もうひとつ、浮上してきたのは子どもたちの「感情労働的な側面」です。

 「関心意欲態度」や「主体的な学びの態度」などで「学び方」を評価されている子どもたちは、先生が近づくとアピールするように大きい声で発言することがしばしば起きます。それによってコミュニケーション能力などが向上するという「肯定的な側面」があることは事実ですが、「先生の顔色を窺う」活動になり、「主体的な学び」が阻害されかねないという「否定的な側面」もありそうです。

 私は子どたちのこれらの活動をこれまで「否定的な側面」だけどとらえがちでしたから、この本のおかげで「肯定的な側面」を取り上げることができたのは大きな学びになりました。また、子どもたちは「雇用されて労働している」わけではないので、厳密には「感情労働」をしているとは言えません。その違いによる「楽観的な側面」と「悲観的で深刻な側面」も出てきそうです。

 とても良い刺激を与えてもらいました。感謝します。

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