「学習としての体験授業」の必要性(5)

【授業研究】2 「学習としての体験授業」には必要な構造がある。」の続きです。

(全体の構成は下段を参照してください)

 

 ここまでは、体験授業の授業者が「授業をどう進めるべきか」を論じてきましたが、この項の最後に取り上げたいのは「授業の準備」です。私は「学習としての体験授業」の授業者は、〈とてつもなく時間と労力をかけた授業をやるべきではない〉と思っています。その「主張する理由」と「しばしば多大な労力をかけた授業が出現する理由」について述べることにします。

 まず、〈とてつもなく時間と労力をかけた授業をやるべきではない〉理由は端的に言えば、準備に大きな労力が必要な授業は「真似するのが困難」であり、「継続も困難」だからです。その結果、体験授業によって「良い授業」だと感じても、それを自分の現場で実践することはできないことになります。せっかくの研修が無駄になりかねません。

 中には、それでも頑張ってその授業をマネする人もいるかもしれません。するとどうなるか。想像できるのは以下です。

(1)たまに物凄い授業をやるけど、他の大半の授業の質は落ちる。

(2)授業準備に労力が奪われ、担任業務・進路指導・生徒指導等が疎かになる。

(3)睡眠不足の日々が続いて体調を崩す。

 いずれにしても、生徒にとっては「不利益」です。

 そこで私は常々、こう主張しています。〈「授業改善と仕事軽減」はセットで行うべきだ〉。逆に言えば、仕事量が増えるような授業改善はやるべきではないと思っています。これは理想論ではなく、実現可能なことです。私自身は10年前に高校物理を大幅に変えた時に、同時に授業準備時間も減らしました。最近支援して成果を上げた中学校の先生たちも、「授業準備の負担感は減った」と言っています。

 「学習としての体験授業」を進める「授業者」の方には、このことを踏まえて、「その授業をまねすると、準備の時間が減少する授業」を披露して欲しいものです。

 それにもかかわらず、「しばしば多大な労力をかけた授業が出現する理由」について述べることにします。その理由はアドラー心理学が言う「褒められ競争」が起きているからだと思います。それを引き起こすのは、研修会の持ち方に原因があります。このような「学習としての体験授業」はどのような場面で行われているかというと、大半が「研修会」や「イベント」です。

 大きなイベントになると、「体験授業」がいくつも次々に繰り広げられたり、並行していくつも繰り広げられています。参加者は、あちこちの授業を渡り歩くことになります。このような状況の中で授業者の気持ちはどうなるか?以下のような気持ちになることが想像できます。

(1)生徒役も先生たちだから、その先生たちより「良い授業」をやらなくてはならない。

(2)参加した先生たちに、「素晴らしい!」と褒められたい。

(3)他の授業も見た人たちに、「あなたの授業の方がよかった」と言われたい。

(4)マスコミも取材に来ている。記事に取り上げられたい。

(5)有名な指導者が来ている。その人の目に留まりたい。

 このような気持ちになるのは、人間としては当然のことだと思っています。私は個々の授業者に問題があるのではなく、このようなイベントの持ち方や、「学習としての体験授業」の意義付けが明確にされていないことに問題があると思います。

 例えば、以下のような「ルール」を設定しておけば、少しは改善できると思います。

(1)主催者は授業者に「毎日行っている授業をそのまま実践してください」と依頼する。

(2)その授業の準備時間は1時間以内のものにする。或いは、準備時間を明示する。

(3)体験授業の現場をマスコミに取材させない。

 (これは後述する「振り返りと気づき」の観点からも必要なことです)

(4)生徒役としての参加者には「どんな授業を受けたか」よりも、

 「自分がどんな気持ちを味わったかが大事」と説明しておく。

(5)「振り返りと気づき」のプロセスをきちんと入れて、

  参加者の学びを保証する。

(6)可能であれば「授業者」とは別にファシリテーターを置き、

  「振り返りと気づき」の過程に重点を置き、学びの質を高める。

(この項続く)

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※断続的に続けている論考の全体構成は以下です。本日の部分は「2」です。

1   「新しい授業」を始めるのには、

  「生徒役としての授業を受ける体験」が不可欠である。

   (※この授業のことを「学習としての体験授業」と呼ぶことにします)

2 「学習としての体験授業」には必要な構造がある。

3 「学習としての体験授業」のあとに「振り返りと気づき」を促す構造が不可欠である。

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2/12(月・祝)19:25~19:55 Eテレ

2/17(土)  10:30~11:00  Eテレ

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 この番組の内容を授業改善の視点から解説したのは、このブログの2018/1/18です。ご参考に。http://a2011.hatenablog.com/entry/2018/01/18/081418