「席自由?カップルも「あり」ですか?」

【授業研究】研修会でいただいた質問に対する回答です。
〈質問〉「席自由で「ぼっち席」もあるとのことですが、2人のグループや男女のカップルのようなグループも「あり」ですか?」
〈回答〉
  これは20代女性の方からの質問です。40〜50代の先生だとカップルに対して「おお、お前たち仲いいねぇ〜」なんて揶揄して、生徒たちが雰囲気を感じて別の席に行くなんて光景がありそうですが、20代女性の先生に対しては生徒も大胆になることもありそうな気がします。ただ、ベテランがなんとなくカップル席を禁止する雰囲気を作るのは「席自由の原則」は守られていない気がします。また、「男女」のカップルはダメで、「男男」「女女」のカップルなら良いとするのもジェンダー教育やLGTBの人たちへの対応などの観点からは問題になりそうな気がします。
 私は教室内でのカップル席を禁止はしていませんでした。しかし、そのままで良しとはしていませんでした。私の原則に沿って「質問で介入」し、「振り返りと気づき」を促して調整していました。その方法の前にこの問題について私が考えたプロセスを述べておきます。
 私は非構成的エンカウンターグループ・構成的グループエンカウンターなどのグループ体験が多いので、この中には必ずと言って「ペアリングの禁止」という原則が入っていることを知っていました。その理由は公衆の面前でマナーが悪いというだけではなく、「グループ全体で協力する」という原則が維持しにくいからだと教えてもらったことがあります。実際、大人の男女が数日間寝泊りをともにすると、疑似恋愛的な雰囲気は起きやすいことを何回か見てきました。これは大事な原則です。
 また、アクションラーニング・セッションでは「局所的にコーチングが起きる」ことを警戒しています。具体的には「Aさんが質問してBさんが答え、またAさんが質問してBさんが答え‥‥」という状態が続くことです。この場合、Aさんはコーチングのスキルが高い場合が多くあります。たぶん、コーチングは1対1の技法なのでついつい1対1で話を進めてしまいがちになるのだろうと思います。私はこれも「一種のペアリング」だと思っていました。他のメンバーが話に入りにくくなってしまうからです。
  授業中の「質問で介入」のヒントになったのは、このアクションラーニング・セッションで「局所的にコーチング」が起きた時のアクションラーニング・コーチ(以下、ALコーチ)の介入方法でした。このような場合のALコーチの介入方法は以下でした。「今、この場の雰囲気はどうですか?」「共有とサポートは守られていますか?」「平等と尊重は維持できていますか?」などの質問をするのです。
  そうすると「AさんとBさんの2人だけのやり取りが多くて私たちは入っていけない雰囲気でした」「2人だけのやりとりが続くので、みんなで共有している気がしませんでした」「Aさんだけが一生懸命にBさんを支えているような気がしました。私たちもいるのよって言いたい気がしました」「AさんがBさんに対して上から目線で話しているようで、平等な関係が維持できていない気がしました」などの発言が出やすいのです。その結果、Aさんはコーチング・モードから離れることになります。
 この時、Aさんが「コーチングをやってはいけない」と表面的に理解してしまうことも多いのですが、大事なことは「チームで協力するという原則が壊れてしまう」ということなのです。ペアリングやカップルが良くないのもこの視点からとらえる方が良いと私は思うようなっていました。
 これらのことを踏まえて、性別に関わらず「2人だけ」になっている場合には次のように質問していました。「チームで協力できていますか?」「他の人たちとの協力はできていますか?」「他の人に質問に行くとか、他の人たちからの質問を受けるとかはできていますか?」などと質問で介入していました。それによってカップルがすぐに別々の席に着くということは滅多にありませんでしたが、少しずつ他の生徒に質問をしたり、別の席に歩いて行ったりすることはできるようになっていきました。
 「カップル席はダメ」というメッセージを出さないように私は気を付けていました。ただ、状況次第なので、学校・クラスのグランドルールに「ペアリング禁止」などを入れておくことも悪くはない気がしています。状況に応じてお試しください。
【私が書いているのは全て私の実践を見たり聞いたりした方からの質問に対する回答です。私の授業実践が「唯一の正解」というわけではありません。私の授業が成功していた背景には、科目特性、生徒・学校の特性、小林の得意(生徒指導、カウンセリング、教育相談等)、などがあります。ただ、一般論だけを論じても伝わりにくいので私が何をしているのか、私が何を考えているのかを具体的に書いています。この通りにやるべきだといいたいのではなく、この実践を「ヒント」にして、みんなさんの実践を変えるきっかけになったり、議論を始めるきっかけになったりすることを期待しています。】