「こんな授業を毎日できるのですか?」

【授業研究】研修会でいただいた質問への回答です。
〈質問〉「小林さんの『毎日できる程度の授業準備をしましょう』に賛成です。しかし、初任者の授業を見て、本当にこれが毎日できるのかと疑問に思っています。小林さんの考え方ややり方を具体的に教えてください。
〈回答〉
  私は「授業改善」と「負担軽減」をセットで行わなければならないと思っています。そうでないと、電通事件などのようなことが繰り返されるのではないかと危惧しています。その対策は管理職や職員集団の在り方を変えることだと思っています。「遅くまで残っている教員をほめる上司や仲間」「頑張っていることをほめられることに満足し、時にはそれを目指す職場の雰囲気」などを変える必要があると思っています。ただ、「遅くまで残って、時間をかけてつくってはいけない」というだけではなく、実際に短時間で作る手法やスキルも開発・伝達されるべきだと思っています。私の実践がその一例になることを期待しています。
 以下、私はどうやってこの授業を「毎日、実践できるようにしていたか」を説明します。その結果、1〜2年目は少々時間がかかることもありましたが、ひとコマ分の授業準備は「1時間以内」と決めていました。その時間内でできる程度につくるということです。3年目以降は蓄積したデータがあるので、ひとコマあたり30〜40分で準備ができていました。その準備方法を述べますが、まずは授業の流れを「使用していたもの」を中心に列挙します。
(1)15分間の説明はパワーポイントを使う。(板書時間をゼロにする)
(2)パワーポイントのデータを印刷して事前に生徒に配布する。(ノート時間をゼロにする)
(3)「練習問題(4〜5題)」「解答解説」を事前に生徒に配布する。
(4)「確認テスト(2題)」を授業の後半に使用する。
(5)毎回、リフレクションカードを書かせる。
 つまり私が授業準備として作っていたのは(a)パワーポイントのプレゼン用データ、(b)それをそのまま印刷したプリント、(c)「練習問題」「解答解説」「確認テスト」の3種類のプリント、(d)リフレクションカード、です。これらをいかに効率よくつくるかです。私は以下のようにやっていました。
(A)教科書をpdf化する。
(当時は教科書の背表紙を裁断→スキャナーにかける、という作業をしていましたが、それでも30分もかかりませんでした)
(B)パワーポイントのプレゼン用データをつくるのには以下のようにしていました。
 (ア)PC上にパワーポイントとpdfを表示する。
 (イ)教科書pdfの図や写真を「スナップショット」で切り取り、パワーポイント・スライドに貼り付ける。
   (要するに教科書の切り貼りです。紙をはさみで切って糊で貼るよりはるかにスピーディーです)
 (ウ)何枚かの図や写真を1枚のスライド上に整理して、要点を書きこむ。
 (エ)図や写真は教科書の順番通りにする。(こうしないと生徒は不安になる)
 (オ)教科書以外から(例えばインターネットから)、より良い画像を探したり、自前で作ったりしない。
   (これをやると無限に時間がかかる‥失敗談)
 (カ)アニメーションは基本的には使わない。見出しや吹き出しの形・色はシンプルに統一する。
   (アニメーションで生徒が喜ぶのは最初の数回だけ)
(C)上記でプレゼンデータは完成。これを印刷して配布資料も完成。B4サイズに4スライドを貼り付けていました。
  (当時はパワーポイントの「配布資料」機能を使用。最近は印刷する際にプリンターの「4 in 1」を使用)
(D)問題作成は数研出版の「スタディーエイド」というデータベース・ソフトを使用していました。数研出版社が発行している全ての物理問題集の問題・解答・解説がデータ化され、検索・配置などが簡単にできるようになっています。私は「問題集」と「大学入試問題」の2つのデータベース・ソフトを使っていました。
(E)その使い方です。
 (ア)単元・難易度などを絞り込むと問題・解答・解説が表示されます。
 (イ)その中から候補の問題を6〜7題ピックアップしましす。
 (エ)ワンタッチで問題のレイアウトができます。
 (オ)画面上で改めて問題を吟味して4〜5題に絞り込みます。これで「練習問題」は完成。
 (カ)「練習問題」は「問題だけを表示」の設定なので、これを「解答と解説を表示」に切り替えると「解答解説」も完成。
 (キ)再び「練習問題」の「問題だけ表示」にして、2題を消去。これで「確認テスト」完成。
(F)補足
 (ア)「リフレクションカード」はA4両面に罫線だけを印刷したシンプルなもの。年度初めに大量に印刷して終了。
 (イ)「リフレクションカード」に書かせるための質問は「確認テスト」の末尾に付けることにした。
これにより、質問の内容を変えることも簡単にできるようになりました。。
 (ウ)3年目以降はすでに作成したデータがあるので、これの微調整だけ。データ調整に短い時は15分程度。
印刷も含めて、30分もあれば充分に準備ができていました。
 このようにして旧課程の「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」の全範囲のデータを私は完成させ、現在も持っています。そこで、研修会の一環として高校に伺って初対面の生徒を相手に物理授業を実践して見せるときも簡単です。その単元のデータを使えばよいからです。一応、物理の先生に私が担当する箇所の教科書pdfデータを事前にいただいて、図や写真を生徒たちが使っている教科書に合わせて入れ替えますが、それでも30分もあれば充分な作業です。更に、学力レベルに応じて練習問題を差差し替えることもありますが、これも30分もあれば完成します。
 最後に、この方法の他の利点を少し上げます。
(1)授業をパターン化すると生徒は慣れて熟達します。「主体的・対話的で深い学び」がどんどん促進されます。
(2)私の作業もパターン化されるので熟達し、どんどん早くなります。
(3)データ化により劣化しません。何年も使えます。
(4)データ化するのでシェアできます。同一科目・同一教科の先生たちで共有したり共同作成をしたりも可能です。
お試しください。
【私が書いているのは全て私の実践を見たり聞いたりした方からの質問に対する回答です。私の授業実践が「唯一の正解」というわけではありません。私の授業が成功していた背景には、科目特性、生徒・学校の特性、小林の得意(生徒指導、カウンセリング、教育相談等)、などがあります。ただ、一般論だけを論じても伝わりにくいので私が何をしているのか、私が何を考えているのかを具体的に書いています。この通りにやるべきだといいたいのではなく、この実践を「ヒント」にして、みんなさんの実践を変えるきっかけになったり、議論を始めるきっかけになったりすることを期待しています。】